産後ケアはこんなに違う — 韓国・日本・オランダを比べてみた
韓国は施設で1ヶ月、日本は実家へ、オランダは翌日から看護師が自宅に来る。産後の1ヶ月をどう過ごすか、国によってここまで違います。
「産後は無理をしてはいけない」という点では、多くの文化が共通しています。でもその"無理しない"を実現するための仕組みが、国によってまったく違う。
韓国・日本・オランダ。同じ先進国でも、産後ケアへのアプローチはこれほど異なります。
韓国 — 産後調理院、世界でここだけのシステム
韓国に**サヌジョリウォン(산후조리원)**という施設があることを、外国人に話すとたいてい驚かれます。出産後に退院したら自宅ではなく専用の施設に入り、2〜4週間を過ごす。その間、赤ちゃんのケアは訓練された看護師が担い、お母さんは食べて、眠って、母乳育児を学ぶことに集中できます。
利用率は韓国の産後女性の75%以上。費用は2週間で20〜40万円が標準で、ソウルの高級施設ではその数倍にのぼりますが、それでも「当然使うもの」として定着しています。

このシステムの背景には、韓国の伝統的な産後禁忌があります。冷たい水は禁止、冷たい風もNG、重いものを持ってはいけない、外出は控える。かつては姑や実母が1ヶ月間付き添って世話をするのが当たり前でしたが、急速な核家族化によってその役割を施設が担うようになりました。
韓国のサヌジョリウォンが解決している最大の問題は睡眠です。多くの国の産後女性が直面する最初の壁——新生児との壮絶な寝不足——を、韓国のお母さんはある程度回避できる。夜間授乳を看護師がサポートし、赤ちゃんを預かってくれる時間に眠ることができる。これを他国のお母さんが羨ましがるのも無理はありません。
課題として指摘されるのは、初期の母子分離の時間が長くなる点です。愛着形成への影響については研究が続いていますが、明確な結論はまだ出ていません。
日本 — 里帰り出産という伝統、そしてその限界
日本には里帰り出産という慣習があります。妊娠後期に実家へ帰り、地元で出産して、1〜2ヶ月ほど母親の世話を受けながら過ごす。長らく「普通のこと」として機能してきたシステムです。
地方の産科クリニックが里帰り中の妊婦を多く受け入れる体制を整えていたり、夫が週末に新幹線で会いに来るのが当然だったり、日本社会のインフラ自体がこの慣習に最適化されていた部分があります。
ただ今、このシステムは大きなプレッシャーにさらされています。少子高齢化が進み、実母自身がまだ働いていたり、体力的に孫の世話が難しいケースが増えています。物理的な距離も問題で、地方の実家に1〜2ヶ月帰ることが経済的・仕事的に難しい都市部の女性も多い。
日本政府は2017年以降、産後ケア事業を制度化し、各自治体が短期入所施設や訪問サービスを提供できるよう整備を進めています。しかし地域格差が大きく、里帰りに代わるものとして十分に機能しているとは言えない自治体も多い。
この空白が、日本の産後うつ率や産後の孤立問題に影響しているという声は、現場の助産師や研究者から少なくありません。
オランダ — クラームゾルフ、毎日家に来てくれる看護師
オランダのアプローチは、韓国とも日本とも根本から違います。
出産後は施設に入らず、そのまま自宅に帰ります。オランダはヨーロッパで最も自宅出産率が高い国のひとつなので、文字通り「家で産んでそのまま生活を続ける」ケースも珍しくありません。
代わりに機能するのが**クラームゾルフ(Kraamzorg)**という国の制度です。訓練を受けた産後専門の看護師が、出産後8〜10日間、毎日自宅を訪問します。1回の訪問は2〜3時間。お母さんの回復状態の確認、赤ちゃんの体重測定と沐浴、母乳育児の指導、家事のサポート、上の子のケア、産後うつのスクリーニングまで担います。費用はほぼ健康保険でカバーされます。

このシステムの哲学は、韓国とほぼ正反対です。韓国が「お母さんを日常から切り離して休ませる」なら、オランダは「お母さんが自分の日常の中で、専門家のサポートを受けながら早期に適応する」という発想です。
オランダは伝統的に、出産を医療的な出来事ではなく生活の自然な一部として捉えてきた文化があります。クラームゾルフはその延長線上にあり、「産後も暮らしの中で回復する」ことを前提として設計されています。
弱点があるとすれば、8〜10日が過ぎるとサポートが終わるという点です。その後は基本的に自分たちで乗り越えるしかなく、サポートネットワークが薄い家庭にとってはそこからが本当の壁になることもあります。
三つのシステムを比べると見えてくること
どれが正解かという話ではないと思っています。
韓国の施設型は睡眠と専門的サポートという点で優れていますが、コストと初期の母子分離という課題を抱えています。日本の里帰りは家族の温かさがある一方で、その基盤が急速に失われています。オランダの訪問型は日常に根差した現実的な支援ですが、終了後の空白をどう埋めるかは個人に委ねられます。
共通しているのは、どの国も「産後の母親に専門的なサポートが必要だ」という結論には至っているということです。形は違っても。
日本で今起きているのは、里帰りという伝統的なシステムが機能しなくなりつつある一方で、代替の制度がまだ追いついていないという過渡期の問題です。次の世代の産後ケアがどうなるのか、現在進行形の問いだと思います。
里帰り出産した方、実際どうでしたか?助かった点と、逆に大変だった点、聞いてみたいです。
この記事はいかがでしたか?